エクトル・ラボーのおもいで

Nosotros somos buenos compañeros con su permiso le vamo'a presentar  ボクらゆかいな仲間たちからあなたに紹介させていただきましょう
a un cantante que lo hemos coronado como el Rey de la Puntualidad, 「時間に正確な王様」と称されているある歌手のことを
Ya nos dieron la señal que el hombre por fin llegó  やっとあの男が到着したようですよ
Ahora queda con ustedes “El Cantante de los Cantantes” さあ、みなさん、やってきました、「歌手の中の歌手」
con ustedes Hector Lavoe! エクトル・ラボー!


Yo soy Hector Lavoe  わたしがエクトル・ラボー
cinco ocho de estatura  身長は5フィート8インチ
miren que musculatura, miren que linda figura  どうだい、この筋骨りゅうりゅうなカッコいいオレのことをよくみなよ
la verdad que yo me veo bien  マジで自分にほれぼれしちゃうぜ
Yo seguiré mi vaivén cantando con sabrosura  わたしはサボールを歌いながらスイングしつづけよう
siempre estaré con ustedes, mi gente!  わが民衆よ! わたしこそは常にあなた方とともにある歌手
hasta que a mi me lleven en contra de mi voluntad  この意思に反して墓場につれていかれるまで
que me lleven a la sepultura...  みなさんのために歌いつづけよう!


“Tu gente” quiere oir tu voz sonora  いやいや、「キミの民衆」はキミの歌を聴きたいだけなんだ
nosotros sólo queremos que llegues a la hora...   ボクらはキミに時間どおりにきてもらいたいだけなんだ


ustedes están equivocados y se los digo como un hermano  それはキミたちのまちがいだよ、兄弟
yo no soy quien llega tarde  オレが遅刻したんじゃないよ
es que ustedes llegan muy temprano  みんなが早くきすぎているのさ   


Cantante sigue adelante  さあカンタンテ、どんどんいこうぜ
el cantante de los cantantes!  歌手の中の歌手!

 1985年、ニューヨーク・クイーンズのコロンビア人地区にあるクラブに、エクトル・ラボーをみにいった。夜10時ごろクラブについて、待たされること3時間、生でみたはじめてのサルサが、前年にヒットして、以後、彼のテーマソングになるこの“el Rey de la Puntualidad(時間どおりの王様)”だった。当時はスペイン語がほとんどききとれなかったし、サルサの情報っていっても河村要助さんの「サルサ天国」「サルサ番外地」ぐらいしかなかったので(まあ、その分、ダンスがどうだの、サルサキューバだのという情報もなかったわけだが)、ステージではチェギー・アルバレスという歌手が冒頭部分をソロで歌っていたのに、彼をエクトル・ラボーだとまちがえてしまった。歌詞がわかればそんなまちがいはありませんよね。ついでに、その日は夜中の3時にステージが終わったあとで、サウス・ブロンクスにあったコロのアパートに泊めてもらったのだが、今はそんなムチャはしない…たぶん。
 グラスを片手に美女と語らう歌手は、とても気さくで、下町のヒーローそのもののかっこうよさで、私は大いに興奮した。だが、握手をしてもらった手の、死人のような生気のなさに、いっしゅんことばを失ったこともまた、あれから25年たったいまでも鮮明におぼえている。なにはともあれ、コロンビア人だらけの場末のクラブで、今や、世界中でダンスの伴奏として消費されるサルサが、移民の、移民による、移民のための“人生の応援歌”だった時代の残り火に、私はほんのすこしだけ手をちかづけることができたのだった。


 17歳でうまれ故郷であるプエルトリコを後にして、おおくの同胞の群れにまじってアメリカにわたったエクトル・“ラボー”ことエクトル・フアン・ペレス・マルティネス。ニューヨークの下町で、洋服店の配達員としてはたらきはじめたヤセっぽちな移民の少年は、やがてトロンボーン奏者のウィリー・コロンとコンビを結成。1967年に“Quién se llama El Malo, no hay ni discusión, El Malo de aquí soy yoporque tengo corazón”(だれがこのシマのワルなのか そんなことは議論にもならないさ このシマを仕切っているのはこのオレだ なぜってオレには根性があるからさ)と、エル・バリオのハードな日常を歌ってデビュー。街のチンピラ風のスタイルを売り物にしてヒット曲を連発、あたらしいラテン音楽サルサ」の象徴としていっきにスターにのぼりつめ、いつしか「歌手の中の歌手」と呼ばれるようになった。
 哀愁にみちた天性の歌声は、“La Voz”(「声」)というあだなのとおり、はなやかな“Big Apple”の最底辺でつらい日々をけんめいに生きるラテン系の移民たちをはげまし続けた。だが、当の本人の人生は、酒と麻薬と暴力ザタと家庭のトラブルつづき


 自身の不幸とひきかえにするかのように、歌をつうじてひとびとの“Sentimiento”(悲しみ)をときはなっていた歌手は、その生涯においていちどたりとも約束の場に“puntualidad”(時間どおり)にあらわれなかったといわれている。だが、死との約束だけは、あるべきときよりも、ずいぶんとはやくおとずれた。私が握手をしてもらった数年後、エクトル・ラボーはホテルの8階の窓から身を投げ、奇跡的に一命をとりとめたものの、その傷からじゅうぶんに回復することなく、1993年6月29日、46歳の若さでこの世を去ったのだ。


No necesito cariño que me digas  きみがぼくのことをみたくないなら
si no quieres mirarme  きみが口にする愛情なんてほしくない
no necesito que digas amorcito  きみがぼくのことを放っておきたいなら
si ya quieres dejarme  きみがささやく愛なんてほしくない
No es necesario que me digas tantas cosas   きみがぼくのもとを離れたいなら
si quieres alejarte あれこれいってなんかほしくない
no dejes que nunca que tu corazón espere  きみが身を引きたいなら
si quieres retirarte  きみの気持ちなんておいていってほしくない


Porque en la vida muchas veces confundimos  人生においてボクらは
el amor con ilusiones  しばしば幻想を愛ととりちがえてしまうから
y al entregar el corazón  魂をゆだねてみたところで
solo encontramos fracasos y traiciones  その後にでくわすのは失敗と裏切りばかり
Por eso mi alma ya no pide ni pone condiciones  だからぼくの魂はもうなにも望まない
y si te quieres ir  きみがここから去っていきたいなら
no necesito que me des explicaciones  ぼくはきみになにも説明をもとめない…