Compae Chipuco

Viajando para Fonseca   フォンセカにむけて旅をしている最中に
Yo me detuve en Valledupar   バジェドゥパルによったんだ


Y allá en la plaza me encontré   そこの広場で
Con un viejito conversón    ある話し好きな年寄りにあったのさ
Y al pasar le pregunté   彼にたずねたんだ
Oiga compae cómo se llama usted   ねえ、おじいさん、名前なんていうんですかって


Me llaman Compae Chipuco   おれはコンパエ・チプーコっていうのさ
Y vivo a orillas del río Cesar   セサル川のほとりに住んでいるんだ


Soy vallenato de verdad   おれは本当のバジェナートだよ
Tengo las patas bien pintá  とてもきれいな足を織り込まれたピンタのついた
con mi sombrero bien alón   とびきりつばの広いソンブレロをもって
y pa'remate me gusta el ron   仕上げにはラムがお気に入りさ


Me llaman Compae Chipuco   おれはコンパエ・チプーコっていうのさ
Y vivo a orillas del río Cesar   セサル川のほとりに住んでいるんだ 


Soy vallenato de verdad   おれは本当のバジェナートだよ
No creo en cuento no creo en ná   おれはどんな話も信じない
Solamente en Pedro Castro   ペドロ・カストロ
Alfonso Lopez y nada más   アロフォンソ・ロペスのいうこと以外はね
Soy vallenato de verdad   おれは本当のバジェナートだよ
No creo en cuento no creo en ná   おれが信じるのは
Solamente en Pedro Castro   ペドロ・カストロ
En Santo Ecce Homo y nada más.   聖エッケオモ*1だけなのさ

 コンパエ・チプーコことアントニオ・ゲーラ・ブジョネスはこの地で語り継がれる伝説のアコーディオン奏者です。この歌の作者はこの歌→http://d.hatena.ne.jp/Genichi_Yamaguchi/20110506/1304638808に登場するラ・グアヒーラ出身のチェマ・ゴメスです。
 “Tengo las patas bien pintá”を“tengo las patas bien pintadas”と理解して、「きれいに塗られた足を持っている」と訳している英語のサイトがありましたが、このじいさんがセクシーな足の持ち主だったわけではありません。コロンビアのシンボルであるソンブレロ・ブエルティアオ(sombrero vueltiao。このブログのプロフィールにある帽子)は、帽子の山の部分に模様が縫い込まれていますが、「ピンタ(pinta)」とはこの模様のことをいいます。模様はクモ、ワニの目玉、カエルの足、アグーチ(南米産の齧歯類)の歯、雄鶏の足などの動物や、聖人の目のような宗教的なオブジェクトであることが多いのですが、これは各コミュニティや一族に固有のものとされ、模様をみればどの起源の帽子かがわかるそうです。
 ペドロ・カストロとは郵便通信大臣・マグダレナ・グランデ県〜現在のマグダレナ県とセサル県をあわせた地域〜の知事もつとめたこの地域の有力者。恋人・愛人、親類縁者、スポンサーの名前を歌に入れるのは田舎音楽としてのバジェナートの特徴のひとつです。ちなみに、ペドロ・カストロ自身はバジェナートが好きではなかったそうです。
 アルフォンソ・ロペス・プマレホはこの地域の門閥出身の政治家で後にコロンビア大統領を務めました。1960年代にセサルで議員、さらに県知事を務め、1974年にはコロンビア大統領になった政治家。息子のミチェルセンは1960年代にセサルで議員、さらに県知事を務め、1974年にはやはりコロンビア大統領になった政治家で、中央から蔑視されていたこの地域の伝統文化の振興に力を入れたことで知られています。

*1:ラテン語で「この人を見よ」の意。新約聖書中の「ピラト再び出でて人々に言う『見よ、この人を汝らに引き出す、これは何の罪あるをも我が見ぬことを汝らの知らん為なり』ここにイエス茨の冠をかむり、紫色の上衣をきて出で給えば、ピラト言う『見よ、この人なり』。転じて荊の冠をしたキリスト。