月刊ラティーナ7月号<バジェナート伝説フェスティバル>現地レポート(その1)

 2012年4月26日の朝、ボゴタ発の飛行機がアルフォンソ・ロペス空港に降り立つと、これまでこの季節が来る度に何度も口ずさんできた曲がラジオから流れてきた。筆者にとっては11年ぶり8回目のコスタ(コロンビア大西洋岸)の地である。


フェスティバルが始まった みんなが僕のことを誘いに来た
僕といっしょに勉強していた 田舎の仲間たちも帰ってしまった
みんなが帰った昨日の午後 僕はふさぎ込んでいた 誰にも気持ちを話したくなかった
僕だって死ぬほど帰りたいんだ でもこの首都にいなければならないのは 僕のさだめなんだ
部屋に閉じこもったまま 僕は悲しい気持ちを あの土地にいることのできない空しい心を 詩にしたよ
気の利いた小話とすてきな物語 それがあの土地の習慣
おじいちゃんたちのために書いた 思い出を綴った詩
いつもいっしょだった恋人や友だちたち
僕はここにいるけれど 僕の魂はいつもあの土地にある
(Rafael Manjarréz“Ausencia sentimental”。1986年カンシオン・イネディタ部門優勝作)


 過去のエントリーで多くの写真を載せたのでおわかりと思いますが、私は4月25日から5月4日までコロンビアを訪問し、第45回バジェナート伝説フェスティバルを取材してきました。もっともこのブログは1日30ぐらいのアクセスしかなく、私と親しい人以外にはほとんど読まれていませんので、多くの読者は写真などみなくても知っているのでしょうね。
 発売中の月刊ラティーナ7月号に、私の書いた伝説フェスティバルのレポートと、アンドレス“エル・トゥルコ”ヒルのインタビューが掲載されています。コロンビアを代表するフォルクロールを日本の雑誌メディアで紹介する機会を与えられたことについては、この国の音楽をこよなく愛するファンとして本当にうれしく思っています。
 先月60周年を迎えた月刊ラティーナとは1988年以来たまーにCDレビューを書いたり、インタビュー記事を書いたり、「ブエノス・ディアス、ニッポン」を連載/単行本化させていただいたり、太くなったり細くなったりしつつ長いおつきあいですが、こういう音楽を取りあげてくれる雑誌は本当に貴重です。
http://latina.blog78.fc2.com/blog-entry-674.html
 ただしバジェナートは、コロンビアにおけるプレゼンスとは対照的に、日本ではあまり知られていない音楽です*1。そこで雑誌をお買い上げいただいた方にどんな音楽かを知っていただくために、記事で取りあげた曲や音楽家について映像やこれまで書いたブログのエントリーを紹介することにします。ぜひ記事とあわせてお聞きください。


 まずは、「<バジェナート伝説フェスティバル>現地レポート」の本文です。
★ ラファエル・マンハレス「アウセンシア・センティメンタル」(Rafael Manjarréz “Ausencia sentimental”)  ♪“El que nunca ha estado ausente no ha sufrio guayabo(故郷を離れたことのないヤツにはグアジャボ*2は分からない)”・・・私にとって「アウセンシア・・・」は多くのバジェナートの曲のうちのひとつに過ぎなかったんですが、今度の旅で忘れられない歌になりました。歌はシルビオブリトー、映像が歌詞とシンクロしていて泣きたくなるようなビデオです。

★ ラファエル・エスカローナ(Rafael Escalona)「エル・テスタメント」(“El testamento”)「ラ・カサ・エン・エル・アイレ」(“La casa en el aire”)
http://d.hatena.ne.jp/Genichi_Yamaguchi/20100429/1272502199
★ ラファエル・エスカローナ「エル・アルコ・イリス」(Rafael Escalona “El arco iris”)
http://d.hatena.ne.jp/Genichi_Yamaguchi/20100417/1271513591
★ ルイス・エンリケ・マルティネス(Luis Enrique Martínez)
http://www.youtube.com/watch?v=_V6HHiXfLTE
★ エミリアーノ・スレータ(Emiliano Zuleta Baquero)
http://d.hatena.ne.jp/Genichi_Yamaguchi/20091115/1258252788
★ ファンチョ・ポロ・バレンシア(Juancho Polo Valencia)
http://d.hatena.ne.jp/Genichi_Yamaguchi/20091114/1258178285
★ ピロネーロス(男性)とピロネーラス(女性)。 “ピロン”とはなんですかって人は雑誌買ってくださいね〜。

★ 「障がい者問題に対する啓発」
http://d.hatena.ne.jp/Genichi_Yamaguchi/20110503/1304382693
★ 「エル・ポージョ・バジェナート」(Luis Enrique Martínez “El Pollo Vallenato” )
http://d.hatena.ne.jp/Genichi_Yamaguchi/20110504/1304463556
 こちらは今年のフェスティバルのプロ部門予選1回戦。私が撮影した映像で、「チャンネルの品質」ボタンを選択して1080pで視聴可能です。アコーディオンはエイマル・マルティネス、カジート・ダンゴンの相棒ですね。歌とグアチャラカはフェルナンド・オルティス、カハはアルベルト・カマチョ。アイレはパセオ。ちなみに、フェスティバル2日目に予選会場をうろうろしていたら「日本からプレスがきているぞ」ということで急きょカルタヘナのテレビの取材を受けました。「何かカメラの前で歌ってよ」といわれたので、2010年のバジェナート王・ルイチート・ダサもみている前でこの曲と「イグアル・ケ・アケージャ・ノーチェ」(“Igual que aquella noche”「あの晩と同じように」)歌ったらバカうけでした。

★ 「エル・アフリカーノ」(Calixto Ochoa “El Africano”)。コロンビア国外だとウィルフリード・バルガスのメレンゲドミニカ共和国の)のほうが有名かも知れません。
http://www.youtube.com/watch?v=i7cq4Cteu2s
★ 「ロス・サバナ―レス」(Calixto Ochoa “Los Sabanales) 。フェスティバルには、バジェナート以外の有名人も来ますが〜今年はチョックキブタウン、ウィシン&ヤンデル、Jバルビン、フアネス。みんなよかったですよ〜この曲はフアネスが歌っていました。

★ 「アンパリート」(Calixto Ochoa “Amaparito”)/パセオ。今年のフェスティバルのプロ部門予選1回戦。私が撮影した映像です。アコーディオンはここ数年注目されている若手奏者のハビエル・マタ、歌とグアチャラカはオダシル“エル・ニェコ”モンテネグロ、カハはオメル・カルデロン

★ ソン。今年のフェスティバル、フェルナンド・ランヘルのリハーサルです。曲は「ラ・ビーダ・イ・ラ・ムエルテ」(Calixto Ochoa“La vida y la muerte”)。予選会場では他人の本番中もかまわずいたるところで参加者がガンガン演奏しています。私はランヘルの予選はみていないのですが、こんなの間近で聞いたら卒倒するな。

★ メレンゲ。今年のフェスティバルの子ども部門です。曲は「ロシータ」(Luis Enrique Martínez “Rosita”)です。

★ プージャ。今年のフェスティバルのプロ部門予選2回戦。私が撮影したものです。アコーディオンアンドレス“エル・ネーノ”ベレーニョ、歌は普段も彼とコンビを組む元ロス・ディアブリートスのアレックス・マンガ。このフェスにしてはなにげに人気歌手がでています。曲は「ラ・ビエハ・ガブリエラ」(Juan Muños “La Vieja Gabriela”)、フアン・ムニョスさんに遊ばれたガブリエラさんがムニョスさんを殺してやるといってる歌です。なんか今年のフェスで聴くプージャは痴情のもつれ系の歌が多かった気がします。ウィルベル・メンドーサのカハがすごい。

★ カリスト・オチョア「ラ・サンギフエラ(ヒル女)」(Calixto Ochoa “La Sanguijela”)今年のフェスティバルの子ども部門です。アイレはプージャ。  ♪  俺がフラカといっしょにブラブラしていたら 遠くからゴルダが「このヒル女め」って叫びながらやってきた 俺が二人のあいだに割ってはいると フラカが怒ってゴルダにいった 「あんたにもう一度いってやるよ あんたがあたしの持っていないものを持っているのかいってみな」 ♪  子どもがこんな歌うたっちゃだめじゃないの・・・

★ アレホ・ドゥラン「ペダソ・デ・アコルデオン」(Alejo Durán “Pedazo de acordeón”)。アイレはプージャ。
http://d.hatena.ne.jp/Genichi_Yamaguchi/20101205/1291496525
★ プロ部門決勝戦。1分過ぎからルーカス・ダンゴンの演奏が始まります。ファイナリスト5人のうち3人は予選でじっくり聴いたのですが、ダンゴンが演奏はじめてすぐにマウリシオ・デ・サンティスの王者は絶対ない、ウィルベル・メンドーサもほぼない、ハビエル・マタもたぶんない、とわかるほど良かったです。彼についてはチューロ・ディアスのアコーディオン奏者だったな、シルベストレの従兄弟らしいというぐらいの認識で、28日深夜にバンド形式の演奏をみたにも関わらずノーマークだったんですが、これほどのアコーディオン奏者を見逃していたとは・・・。ビデオでわからない部分も会場だとよくわかりますね。



★ 主催者(バジェナート伝説フェスティバル財団)には、締め切りすぎて取材申込みをしたにもかかわらず快く受けていただいたり、取材許可手続の長い長い待ち時間の間にご飯をおごってもらったり(取材許可が出ると予選はステージすぐのスペースでみることができますし、夜のコンサートも無料になるので、データ登録をしたり顔写真とバーコード入りの取材許可証を作成したりで、手続には半日以上かかります。)、自宅で食事に招かれたり、お食事会に招かれたり(これは私だけじゃなくてメディア向けのランチです。ほとんどがコロンビア国内メディアですが、ベネズエラエクアドルからも取材が来ていたようです。)、いろいろお世話になりました。・・・要はご飯をたくさんおごってもらったということです。
 主催者関係者の親族の方に、バジェドゥパル在住の高名な詩人で、バジェナートに関する評論も多く発表されているホセ・アトゥエスタ・ミンディオラ氏*3(新聞記事の写真で“como el”という文字の下にいる男性。もう1人の男性はラファエル・エスカローナです。)がいました。アトゥエスタ氏から詩集“Sonetos vallenatos 「バジェナートのソネット(14行詩)」”“La Décima es como el río「川のようなデシマ(12行詩)」”“Metáforas de los árboles「木々の隠喩」”をいただきました。
 すてきな詩なので、今度機会があれば翻訳してみたいと思います。

*1:これまで活字になった中できちんとした内容のものとしては、いずれも限定的な記述ですが、石橋純「概説:コロンビア音楽」月刊ラティーナ1990年11月号・12月号、「黄金コンビ・ビノミオ・デ・オロ」同1991年5月号、アルベルト・バスケス「カルロス・ビベス、新たなバジェナート伝説」同94年4月号、丸山由紀「バジェナートの伝統と新しい息吹」同2007年5月号(私も小史とディスクガイドを書いています)、石橋純「熱帯の祭りと宴・カリブ海音楽紀行」・P190・つげ書房新社・2002年があげられます。

*2:コスタ弁で「寂しい気持ち」「郷愁」「温かい家庭や両親に守られ、無邪気に楽しい日々を過ごせた過去の自分への郷愁」、ブラジルでいうところの“サウダージ”。

*3:http://portalvallenato.net/category/jose-atuesta-mindiola/