La muerte de Abel Antonio

 マリア・ムラータのレパートリーとは関係ありませんが、バジェナートです(ただ太鼓部隊の隊長・フアン・カルロス“エル・チョンゴ”プエージョはもとはバジェナートのカハ奏者だったそうです。)。といっても、私の場合、バジェナートについては興味の関係から積ん読の資料も多いし、そもそもこのブログはこれまでのエントリーの半分ぐらいがバジェナートで、いざ「バジェナートとはなんぞや」と問われると、ことばにつまってしまいます。
 ただ、他のコスタの音楽*1と比較した場合にもっとも特徴的な点をあげるとすると、あのアコーディオンの音色もさることながら*2、この音楽の担い手が、さまざまなニュースやゴシップから恋愛沙汰まで、あらゆる題材を歌にしながら放浪する吟遊詩人(フグラール・juglar) *3、いわばコミュニティからのはぐれ者だったということです。

La muerte de Abel Antonio,   アベル・アントニオが死んじまった
en mi tierra la sintieron los muchachos,   おれの地元ではみんなが悲しんだ
La muerte de Abel Antonio,   アベル・アントニオが死んじまった
en mi tierra la sintieron los muchachos,   おれの地元ではみんなが悲しんだ


Fueron cinco noches,    おれは5日間続けて
que me hicieron de velorio,   通夜にいったが
para mis nueve noches,   全部で9晩あるから
todavía me deben cuatro,   まだ4晩行かなきゃならない


Abel Antonio no llores,   アベル・アントニオ、泣くんじゃない
que eso le pasa a los hombres,   それは男には起きることだから
Abel Antonio no te pongas a llorar,    アベル・アントニオ、泣かないでくれ
que eso le pasa al que sale a caminar,   それは外に出て歩く者には起きることだから

 歌詞だけ紹介するというこのブログのスタイルを変えて、しばらく書いてみたコロンビア音楽お勉強編は、コスタの音楽では比較的新しいチャンペータ(champeta)、コロンビアの山岳地方の音楽の中でもっとも先住民の要素が強いtorbellino(トルベジーノ)、東部平原地帯の音楽であるjoropo(ホローポ)、太平洋岸地方の音楽クルラオ(currlao)などなどまだ紹介していないものがものすごくたくさんありますが、いったんこれでおしまいです。正確さの保証は一切いたしませんが(ただし分らんものは分らんと書いたつもり)、自分なりに知識の整理になると同時に、あらためてコロンビア音楽に惚れ直しました。いや、本当にコロンビア音楽ってすばらしいですね!

*1:バジェナートはコスタといってもマグダレナ、セサル、ラ・グアヒーラの東側三県になります。

*2:アコーディオンは最初からバジェナートに必須の楽器だったわけではありません。1829年オーストリアのシリル・デミアンが発明したとされる近代的なボタン式アコーディオンが、19世紀にグアヒーラ半島(の、おそらく港町リオアチャ)に到達する前から、ガイタ、グアチャラカでするバジェナート(的な放浪楽師の音楽)があって、その後これにギターが加わり、やがてアコーディオンにとって変られた、という説明がされています。

*3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB だから、バジェナートのリズム〜プージャ、メレンゲパセオ、ソン〜はコスタのアフロ系音楽一家に属するものの、バジェナートはもともとダンス音楽ではありませんでした。アレホ・ドゥランなど、聴衆が踊り出したら「ちゃんと聞かないならおれは帰る」と言ってステージをほっぽり出したなんてエピソードもあるぐらいですから。