Rin del Angelito

Ya se va para los cielos ese querido angelito     天に召された 愛しいアンヘリート
a rogar por sus abuelos por sus padres y hermanitos.   お祖父さんお祖母さん お父さんお母さん 兄弟たちのためにお祈りするために
Cuando se muere la carne la alma busca su sitio   体が死んで 魂が行くべき場所を探している
va dentro de una amapola o dentro de un pajarito.   ひなげしのなか それとも小鳥のなか


La tierra lo está esperando con su corazon abierto   寛大な心をもった大地が アンヘリートを待っている
por eso que el angelito parece que está despierto.    だからアンヘリートも まるで起きているかのよう
Cuando se muere la carne la alma busca su centro    体が死んで 魂がありかを求めている
en el brillo de una rosa o de un pecesito nuevo.     きれいに咲いたバラの花の中 それとも魚のなか


En una cuna de tierra lo arruyara una campana    大地のゆりかごの中で 鐘がアンヘリートのために子守歌を奏でている
mientras la lluvia le limpia su carita en la mañana   朝の雨が そのかわいらしい顔を清めるあいだに
Cuando se muere la carne la alma busca su diana   体が死んで 魂がそのありかを求めている
en los misterios del mundo que le abierto su ventana    その窓を開けた神秘に満ちた世界のなかで


Las mariposas alegres de ver el bello angelito    蝶たちが美しいアンヘリートをみるために    
alrededor de su cuna que caminan despasito.    ゆりかごのまわりでゆっくりと舞っている
Cuando se muere la carne la alma va derechito    体を失った魂はまっすぐ飛んでいく
pa’saludar a la luna y de paso al lucerito.    月と星の光にあいさつをするために


Adonde se fue su gracia donde se fue su dulzura    優美で甘いアンヘリートはどこにいくの
Por que se cae su cuerpo como una fruta madura.   なぜその肉体は熟れた果物のように朽ち果てるの
Cuando se muere la carne la alma busca en la altura    体が死んで 天に召された魂は問いかける
la explicacion de su vida cortada con tal ternura    こんなにも愛情に満ちた人生がこんなにも早く終わるわけを
la explicacion de su muerte prisionera en una tumba   囚人のように死んでお墓に入らなければならないわけを
Cuando se muere la carne la alma se queda altura.   肉体を失った魂は 高みに留まっている

 この曲は、「ビオレッタ・パラ『人生よ ありがとう − 十行詩による自伝』現代企画室(1987)」で詩人の水野るり子さんが翻訳をされていますが、改めて読んだところ、ちょっと違うように思ったので*1、訳してみました。まあ例によって私が正確とは限らないのですが。なお「人生よ…」では“alma”の冠詞が“el”になっていますが(普通はこっち)、歌では“la”のようです。
 かつてのラテンアメリカ諸国の貧しい農民のなかには、幼くして子どもが亡くなったときに、カトリック教会が指導する正当な教会儀式とは別の、「アンヘリート」という儀式がありました。詳細は各地域やコミュニティによってさまざまですが、チリの場合は、túnico(トゥニコ)と呼ばれる衣装で幼子の亡きがらを着飾り、音楽をかけ、食事と酒を用意し、その子の魂が天国へ無事にたどりつくよう祈ったとされています*2
 ビオレータ・パラは、チリ各地を旅し、村々の民謡を採譜していますが、そのひとつがこの曲です。パラ自身もヨーロッパ公演中に幼い娘を亡くしています。
 歌詞を訳していて一箇所気になった部分があります。“muerte prisionera(囚人の死)”という部分です。スペイン語の“prisionero,ra”とは、単なる囚人(preso, recluso)とニュアンスが異なり、主として思想犯などの囚人を指すことがあります。この箇所は採譜したオリジナルにはなかったのではないか、パラが何らかの意味を込めて挿入したのではないか、という気がしています。私の深読みでしょうか。

Las Ultimas Composiciones

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 アンヘリートの儀式の最中に、母親は決して泣いてはならないとされていました。なぜなら、涙で幼くして亡くなった子どもの翼が濡れて、天国へと飛んで行くことができなくなると信じられていたからです。貧困ゆえに、きちんとした医療を受けさせてあげることもできないまま幼いわが子を亡くし、必死で涙をこらえる母の姿から、パラは何を感じたのでしょうか。


 チリでは今月からビオレータ・パラの映画が公開中です*3

*1:だから水野さんの訳は参考にしていません。本にはスペイン語と並べて日本語訳が記載されているので、スペイン語の分かる方は私の訳と比べてみてください。なお水野さんはフランス語がご専門のようです

*2:詳細はIván Castillo“El ritual del Angelito” 2009, http://bit.ly/oU8jlV, Sincretismo Popular“El rin del angelito”http://bit.ly/oyi5hx, 千葉泉「現代チリにおける幼児の葬儀『ベロリオ・デ・アンヘリート』: サンティアゴの事例」1994 http://ci.nii.ac.jp/naid/110004668487

*3:http://www.latina.co.jp/topics/topics_disp.php?code=Topics-20110803124554